装備と用具
 登山の成果は、装備の適否によるところが非常に大きい。
 登山形式、シーズン、日程、コースなど山行の内容と条件に適した携行品、装備品を選択する必要がある。
 山では装備類の補充が不可能であるから、丈夫で軽く、使い易い全天候性能のものを選び、個人装備、共同装備に分け、服装、登はん用具、生活用具、食料、雑品に分類して、落ちがないようにリストアップして準備しよう。
 出発前に必ず再点検をする。

1、用具の基本
 (1)自分に合った用具を選ぶ
   どんな登山を行うのか、そのためには何が必要なのかがはっきりすれば、最適なものを選ぶ
   ことができる。
   使いこなせない用具は、無用の長物であり、使用法を誤ればむしろ危険でさえある。
   経験者から適切な助言を受けるのが一番である。
 (2)耐久性があること
   用具でトラブルを起こすと、その山行が失敗するだけでなく、時には事故につながることさえある。
   使用法に習熟しなければ、用具は決して安全性を高めてはくれない。
 (3)軽いこと
   用具には、絶対に必要なものと、あれば便利で快適であるが、なくとも我慢できるものとに分ける
   ことができるので、厳しく吟味したい。
 (4)使い易い
   疲労して体力も思考力も落ちている状態の時もあるから、最悪の条件を設定し、その中でも使い
   やすいものを選ぶようにする。
 (5)初心者だからこそ良いものを使おう。
   技術や体力の劣る者ほど、扱い易い用具と安全を確保するための用具が必要になる。

2、装備
 (1)装備は使いこなせてこそ始めて有効なのであって、道具が揃っているから大丈夫という錯覚に
   陥らないこと。
 (2)装備で大切なのは、何を持って行くかより何を置いていくかであり、慣れないうちは、結局使いも
   しない予備などが多過ぎ、重くて苦しむケースが多い。
 (3)一般的には、苦痛と思わないで歩ける荷物の重さは、体重七五分の一から八分の一位といわれ、
   体重の三分の一が長時間歩行の限度といわれている。
    (注)「女性特有の登山生理」参照
 (4)不要な装備の重さで体力を消耗し、ペースを崩すことは、天候の急変で窮地に追い込まれた
   場合などは危険ですらある。
   昔から「登山の装備は引き算だ」と言われているが、自己の技量と山行内容、日程などに応じて
   無駄なく調整し、必要最小限度に選定することが肝心である。
 (5)登山の着衣は着乾かしが原則である。濡れても速乾性のものであれば対処できる。
  化学繊
維などの速乾性のものを着る。木綿などの乾きにくい着衣は、時に低体温症を引き
  起こし
命に関わるので、絶対に避ける。
   夏山であっても、高山では気温がグッと下がることがある。フリースか純毛のセーターな
   ど防寒具を携行しよう。

3、服装
  山中は暑かったり寒かったりする。登る時にTシャツ一枚でも暑かったものが、稜線に出て
   風を受けると急に寒くなったり、上にもう一枚着て歩きだすとまた暑くなる
  着たり脱いだりしながら登るのが登山であり、寒いのを我慢していると筋肉の緊張を招き、
  身
体に切れが悪くなったり動きが取れなくなったりして怪我のもとになる。面倒がらずに
  着脱を頻繁に行おう。
  そのためにはベース
(アンダーウェア)、ミッド(中間着)、アウター(外衣)をトータルに
  考える必要がある。そして、下半身はやはり速乾性で伸縮性のある
素材のズボンを履こう。
  行動に合わせて、レイヤーを組み合わせて体力の保持に努めよう。

   下着も速乾性の物を着る。濡れた場合の下着の乾き具合が生死を分ける場合もある。

(1)夏山の服装例
     速乾性に優れた化学繊維系(ポリエステルなど)のものを着用する。
   Tシャツ(長袖が望ま
しいが半袖でも良い)、やはり速乾性の高い山シャツ、防寒着と
   してフリースやウール素
材のセーターを予備に持つ。
   綿などの乾燥し難いものは、高山での体温低下に結びつき時に命に関わる危険性がある。

     綿の使用は絶対に避ける。

(2)春秋の山服装例
     基本的に夏山の服装をベースにするが、それぞれの服装は素材の厚いものにする。
   寒い時は
ズボンの上に雨具のズボンを履いて防寒具とする。帽子、手袋も必携とする。

(3)積雪期の服装
   春秋の山に加えて、ダウンの上着を用意する。冬といえども歩けば暑くなるので、状況に
   合わせて重ね着をこまめにしよう。積雪により足元が濡れるので、合羽ズボンを履き
   スパッ
ツで養生しよう。

(4)雨具
   上下別々のセパーレート型が望ましい。レインコート型やポンチョと呼ばれるタイプは
   風
に煽られると危険なので使用しないほうがよい。
   また、小雨や大雨、風など状況に応じて上
下を調整できるのでセパレート型が望ましい。
   素材は透湿性に優れたゴアテックスなどの素
材が良い。
     傘の使用は手が塞がりとっさの時の対応が遅れるので、歩行中はお勧めできない。
   休憩中や林道歩きの場合に留めるべき。

  (5)帽子
   夏ならUV(紫外線)ア・通気性・速乾性・撥水性、冬なら防寒性、通年で防水透湿性
   など、
選択肢は様々あるので、いくつか揃えて使い分けるとよい。カラフルなカラーリン
   グは山で目立
つという利点もある。
   汗をかきやすい時期には、抗菌性のある素材で作られた帽子もお薦めである。

     夏の強い日差しで起こる、日射病や熱射病を防ぐためにも必要。頭全体を保護する為の
     ものが良いが、野球帽型でもよい。あご紐をつけておく。

 (6)手袋
   
夏は通気性の高いもの、冬は保温性の高いもので、手のサイズに合ったものを選ぶ。
   手のケガ
を防止するためにも必ず使用したい。
   指先露出のタイプは携帯電話を使ったり、写真撮影をした
りする際に便利。
   ハシゴ場や岩場では滑り止めの付いたものがよい。


4、登山靴
  (1)ハイキングコースを軽い荷物で、日帰りの行程、軽い荷物(10Kgまで)、 少ない行程
    (4〜6時間)、標高差(600〜800 m)くらいまでの登山では、布製の軽登山靴は快適な履物といえる。
    ただし、保温、訪水面に難がある。  (注)ジョギングシューズは山行には不適。
  (2)高い山(コースが整備された縦走)で軽い荷物での夏山登山では、布製の軽登山靴でもよいが、
    できれば皮革製の軽登山靴を使おう。
  (3)高い山で荷物が重いときは、皮革製のしっかりした登山靴
  (4)鎖場や岩場などが多くあるコースは、皮革製のしっかりした登山靴
    (注)皮革製登山靴には、ねり状の保革油を指の腹ですり込んだあと、陰干しにしてから、靴墨で
       光沢が出るよう磨く。液状の脂は毛穴を大きくし、水を吸い込むので使用しない。
  (5)靴紐の締め方
    登りには、真ん中のストッパーより下をきつめに、上を緩めにするのがコツ。
    足首が楽になり、疲労度が軽減される。
    下りには、ストッパーから上をきつめに締めると、足がつま先の方へずれるのを防げる。

5、ザックの詰め方
  (1)上下左右のバランスを良く考える。
  (2)背中に柔らかいものがくるようにする。
  (3)荷物はできるだけ背中にぴったりするように角型にまとめる。
  (4)重心をザックの中心よりやや上に置く、
     高重心は、高原歩きのように体をあまりかがめたり、ひねったり、反り返ったりしない時には最適。
     低重心は、スキーのときや溶岩地帯など変化の多い山道を歩くときによい。
  (5)使用頻度の低いものを下の方に詰め、よく使用するものを取り出し易いところに入れる。
  (6)小物は何ブロックかにまとめて、隙間を上手に詰める。

6、ザックの背負い方
  (1)肩紐が緩かったり、長すぎたりすると、背中に余分な負担がかかり、重心が後ろになって歩き
    にくく、体の疲れも早くくる。背中にぴったりくるように調整する。
  (2)調整するときは、あまり肩紐をきつくすると肩の部分を圧迫し、両手がしびれるので、少し歩き
   出した所で何度も調整しながら、自分に最も合った無理のない長さに調整する。
  (3)ザックのまわりには何もぶら下げない。また両手には何も持たない。