前日は寒波を伴った低気圧の通過で、標高555mの日本国(会のトレッキング)でさえ雪が降りましたが、翌日、翌々日は打って変った好天の予報でした。
さてどこに行こうかなと帰路のバスの中で話したり電話したりしたところ、鳥海山に行くから一緒にどうだとの嬉しいお誘いの声、諸手を上げて連れて行って貰うことにしました。
私は、山スキーは今シーズンから始めたばかり、まだ守門大岳と蓬峠の2回しか経験がありません。
密かにシャルマン火打スキー場の非圧雪エリアで練習しようかなと思っていた矢先でしたが、3回目がいきなりの鳥海山でした。
今回のルートは、最初は湯ノ台道の予定だったようでしたが、私が加わったせいか、良いルートに案内してやると言うことで、中島台から入って鳥越川沿いに登って千蛇谷を滑ることに急遽変更になりました。
私にとってはどこでも良いのですが、もう胸がわくわくしていました。 |
(クリックで拡大) |
歩いた軌跡です。赤は登り、青が下りです。往復約23Km,累積標高約1800mの長大なBC(バックカントリー)でした。 |
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このルートは、会山行の鳥海山で前日に良く行く“獅子ケ鼻湿原”を通って登って行きます。
でも一面雪が覆っていますので雰囲気が全然違います。
例の“アガリコ大王”も柵が無く真下で見ることができました。
湧水場所だけが雪が融けて地肌が出ていましたが、白い小さな水芭蕉が咲き始めていました。
そうこうしているうちに標高750m辺りの水場に着き、ここにテントを張りました。
水場とは言え、冬は両岸にうず高く雪が積もっており崖になっています。ピッケルで足場を作り慎重に降りました。
ピッケルを持って来いと言われた理由がそこで分かりました。
夜は一面の星空、翌日の大滑降の夢を見ながら床に就きました。 |
中島台レクレーションの森に車を泊め、スキーを履いて歩き始めるとすぐに獅子ヶ鼻湿原です。奇形ブナの立ち並ぶ森はまだ一面真っ白です。あれが“アガリコ大王”かな。水芭蕉もチラホラ、ここでも春の息吹を感じます。 |
一夜明けると、テントの中でも眩しいくらいの日差し、稲倉岳東面のせいか風もなく絶好の日和でした。
ルンルン気分で登って行きましたが、何と言っても独立峰の鳥海山、そう甘くはありません。少し登ると風がまともに当たって来ます。
足元を地吹雪が吹き抜け、遠くの稜線には雪煙が上がっていました。
でも、このくらいなら大した苦にはなりませんし、天候はさらに良くなっていきました。 |
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2日目の朝は爽やかに明けました。幕営地を出て大雪原を快適に進みます。稲倉岳東面の鳥越川沿いに歩きますので風は遮られて穏やかでしたが、遠くの稜線には雪煙が舞っていました。 |
どうです! この広大な鳥海の裾野。右の外輪山との間を登って行きます。 |
気が遠くなりそうな距離ですが、滑るためにはこのアルバイトを惜しんではいけません。でも、この日は歩くだけでも楽しいのです。素晴らしい天気でした。 |
鳥海山のピーク、新山がくっきりと見え、右には稲倉岳が荒々しくそびえ立っています。
その延長線上には外輪の山々が連なり、それらの頂は皆ゴツゴツしていました。
春とは言え、上はまだ氷の世界なのでした。そして、きれいなのは景色ばかりではありません。
強風でできた風紋、シュカブラと言うのでしょうか、いろんな造形を見せてくれるのです。
私たちはスキーが目的でしたが、写真を撮るだけでも良いような素晴らしい景観でした。 |
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鳥海山のピーク新山が少しずつ近づいてきます。左奥が新山です。 |
途中で幕営したとは言え、登り6時間の行程です。距離にして約12Km,標高差約1800m、ほとんど休まず、黙々と歩き続けます。滑る楽しみと、この景色あればこそできることですね |
景色と同時に目を楽しませてくれるのが、雪面の妙、シュカブラ(風紋)です。強風と低温によりクラストした雪面に様々な波状の紋様ができていました。 |
標高2000m辺りからは、下はガチガチの氷でした。
新雪で白い部分と、それが吹き飛ばされて氷がむき出しになった部分がまだら模様に現れます。
私はクトー(スキーアイゼン)を付けていましたのでそのまま登って行きましたが、同行の先輩はスキーを担ぎ、足にアイゼンを付けて慎重に登って行きました。ストックが刺さらないくらいの固い氷でした。
登るのも命がけでしたが、ここをどうやって滑ればいいのだろうと内心不安でした。
何のことはない、千蛇谷を登り詰めればアイゼンは要らなかったのですが。 |
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ここは、雪面が吹き飛ばされて氷がむき出しになっています。この氷、ストックが刺さらないほど固いのですよ。 |
七五三掛(しめかけ)下の千蛇谷、もう一息ですが、ここからが氷と巨大なシュカブラで難渋するのです。それでも気持ち良い。 |
登るのはまだしも、帰路はここを滑るのですよ。もう、なるようになるさと腹を括るしかありません。 |
そうこうしているうちに大物忌神社に着きました。
しかし、神社も鳥居もすべて雪に埋もれ、屋根の一部だけが覗いているのみです。
ここは雪の世界と言うよりも、まるで氷の殿堂と言ってよいような世界でした。
天気が荒れ、強風が吹いているとここまで来るのも大変とのことなのですが、今日は風も左程ではなく素晴らしい天気です。
こんな日はまたと無いチャンス、新山の頂上まで行こうと先輩は言いましたが、私は、足の痛みもありましたが、どうしてもその度胸が出てきませんでした。
でも自分はここまででも大満足でした。 |
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六さんはついにスキーを担いでアイゼンつけて登り始めました。私はクトー(スキーアイゼン)でそのまま登りましたが、ここをどうやって滑るのだろうと生きた心地がしませんでした。 |
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もう限界だ、もう登れないと泣きが入ったところで足元を見ると、何と大物忌神社の屋根の上でした。罰当たりにも神社の鳥居や屋根を踏んで歩いていたのです。でも仕方ないですね。私はここでストップ。平らな場所で休みました。 |
雪の無い時期に何回も登りましたが、雪と氷の新山は初めてです。滅多に無いチャンスだから登ろうと六さんに誘われましたが、左足の踝が痛くて断念しました。それよりも本心は怖かったのです。 |
六さんは果敢にもスキーを担いで登って行きました。30分で登りつき、頂上でお昼を食べて、そして滑り降りてきました。兄貴さすが、やりますねー。岩でゴツゴツの新山も冬は雪と氷のベールで覆われているのです。 |
さて、千蛇谷の大滑降ですが、正直あまり格好良いものではありませんでした。
大自然が相手なのですから全て良いなどと言うことはあり得ません。
まずはシュカブラ、見る分には楽しいのですが、この上を滑るのは大変なことでした。
次に新雪、これがまた滑らないのです。まるでブレーキを踏んだような感じです。
氷に乗ると急発進、新雪に突っ込むと急ブレーキ、その繰り返しで疲れました。
それでも、好天に恵まれたバックカントリー、気持ちは晴れ晴れ、実に爽快でした。
まだまだ未熟ですが機会あればまた行きたいと思いました。 おわり |
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いよいよ千蛇谷を滑り降ります。我々以外にも何組か入山していました。しかし、谷とは言っても広大なバーン、頼りになるのは同行の仲間のみ。 |
岩と氷とシュカブラと新雪のミックスした決して快適とは言えない斜面を滑り降り、ほっと一息。六さんは余裕で新山を振り返り見ていました。 |
さあ後は、雪面にシュプールを描きながら颯爽と滑りましょう。と思いきや、この雪何? 重くて滑らないのです。一昨日降った新雪が災いしてスキーが滑ってくれないのです。でも、やっぱり大自然の中を滑るのは爽快でした。 |
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紅一点のアイちゃんも果敢に滑って来ます。新調したばかりの板は慣れないとぼやきながらも見事なシュプールを描いていました。 |
幕営地まで戻って来ました。テントを撤収し、重いザックを背負って駐車場へ急ぎます。下りはあっという間でした。 |
午後からは少し雲も出ましたが、1日中素晴らしい天気でした。鳥海山が最後まで微笑んでくれました。楽しい思い出を胸に抱きつつ帰路につきました。 |
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