個人山行紀行文 12.09.02日(日)
晴れ
(おてもがわそこう)
小手茂川遡行
単独行
1861 K/Y
≪コースタイム≫
   小手茂川沿い林道から入渓(9:10)…尾根(11:35-12:30)…入渓点帰投(14:00)
≪紀行文≫

 生来汗かきで、暑い季節はめっぽう苦手なので、夏場は沢に入り浸っています。
 十数年前、二十五年ぶりに山を再開するにあたって、決して岩や沢はやるまいと自分自身に言い聞かせ、ずっと守ってきました。しかし、数年前、昔の山仲間の一人から、その人の奥さんの使い回しのザイルとハーネスを貰い、別の一人からも沢靴と沢用ウェアーを貰ってから、岩や沢も少し試してみようかな、ほんの少しだけならとやっているうちに、段ボールに封印しておいた登攀用具を引っ張り出してしまいました。
 そうなると後は成り行き任せ、今さら人生変る訳が無いと思うと歯止めは無くなり、成るように成るさでやっています。
 もらった沢靴は3回フェルトを張り替えました。フェルトを張り替えに出すと、戻ってくるまでに一カ月以上掛かるので、沢靴一足では間に合わなくなり、新しく沢靴を買い増ししましたが、その靴ももうフェルトを張り替えなければ使えない状態です。

 沢での行先はほとんどが阿賀町方面です。水は綺麗で、沢床も白い場所が多く、何よりも、歩くと濁りが舞いあがるような個所がほとんど在りません。
 ピチャピチャ水遊びの沢、寒くて寒くてガタガタ震える深い水深のゴルジュの沢、魔法の森に迷い込んだのかと思わせるような苔むした岩の沢、厳しいクライミングを要する沢などなど、千差万別、たいへん変化に富んでいます。
 ただし、水が綺麗ということは、吸血性の昆虫が多いということに繋がります。
 ブヨやアブ、特にアブの凄さには成す術がありません。ブヨはシャツの上から刺すことはありませんが、アブはシャツや手袋の上からでも刺してきます。

 今回遡行した小手茂川(おてもがわ)は、戸沢川の支流で、志無燈山至近の尾根を源頭とする小さな沢です。
 水は透明ですが、水量が少なく、水流も緩いので、綺麗な流れとは言えません。沢床もグレーや茶、赤などで、白に比べれば今一つです。
 沢の幅が狭いので、両側から木の枝が張り出し、蜘蛛の巣がやたらと掛かっています。決して素敵な沢とは言い難いのですが、沢床は大部分が一枚岩のスラブ、滝の傾斜は緩く、水深はせいぜい膝くらいまで、適当に魚影もあり、気温も沢なりに爽やかです。
 沢に不慣れな人でも安全に、快適に楽しめる沢だと思います。


 阿賀町三方の小手茂集落と漆沢集落の中ほどに小手茂川沿いに入る林道があります。
 林道に入ってから400mほど先、林道に架かる二つ目の橋から入渓しました。
 沢床には一枚岩のスラブが続いています。
 水深、水量は、写真を見てのとおりです。
 沢が狭いので、両側から枝が張り出し、写真では分かりませんが、蜘蛛の巣が縦横に掛かっています。
 この程度の水量では、見た目暑そうですが、沢の中はけっこう爽やかです。
橋の上から見下ろした沢  入渓後間もない個所の沢の様子

 沢を歩くと、滝や急傾斜のスラブ、深いゴルジュなど、行く手を阻もうとするものが次々と現れてきます。この沢の第一関門は3mほどの砂防ダムでした。
 砂防ダムは手掛かり足掛かりが無く、厄介な存在ですが、この砂防ダムは両側が石積みされていて、割と楽に登れます。
 私は右側(左岸側)から登りました。ただし、少々曲者で、降りるときには手を高みに取れず、バランスを崩し易い状態になります。
 ダム下の水面は1.5mほどの深さがあるので、こうした場合の、一番簡単でかつ安全な降り方は、ダムから水面にドボンと飛び込むことです。
第一関門は砂防ダム 最初に現れた滝
 最初に現れた滝は3m弱でした。その後1〜3mほどの滝が次々と現れてきましたが、いずれも問題なく越えて行けます。
3m×2段の滝 2m×2段の滝  3mの滝

 滝を登る時には、どう降りるかを必ずシュミレーションし、手持ちの装備で問題なく降りれることを確認してから登ります。私は通常、帰りは登った沢から降ります。他の人と同行する場合で、上に登山道がある場合では、帰りは登山道から下山していますが、単独の時には、たとえ上に登山道があっても登った沢から降ります。せっかく涼みに沢に入ったのに、暑い尾根を歩いて汗をかきたくはありません。ましてやマイナーな沢には、上に登山道が無く、登った沢以外から降りようとしたら、くそ暑い最中に藪を掻き分けて降りなければなりません。
 私の場合は、登れるかどうかより、確実に降りれるかどうかの方が重要です。
 どんなに簡単な沢に入る場合でも、確実に降りるための用具を装備しています。

 ハンマー、ハーケン3〜4枚、カラビナ4コ、スワミベルト、スリング1本、8mmロープ20m×1もしくは2本、4mmの細紐、10mm幅のテープが常用装備です。
 また、岩や滝では、行けると思って登って行ったら、途中思わぬ隘路があって、行くに行けない、戻るに戻れない、いわゆるフン詰まりに陥ることが稀に在ります。このような時には、ハーケンの打ち込み以外に手立てはありません。
 帰りは登山道を使うつもりの時でも、フン詰まり状態に対処するために、こうした装備は必要です。
スラブの沢床1  スラブの沢床2  スラブの沢床3

 滝を越え、気持ち良いスラブの沢床を歩いて、どんどん上流に登って行き、終点の尾根ももう間もなくだなと思っていたら、突然どーんと大きな滝が現れました。4〜5段の連滝で、各段総計で30mは優に超えるでしょう。でも、傾斜が緩いので、見た目ほどではなく、簡単に登れます。帰りに降りる時にもロープ無しで降りれました。しかし、安全第一を実践するなら、降りる時にはロープを使って懸垂下降した方が良いと思います。
滝は右に曲がって上部に登っています 2段目から上部を見上げました 連滝の最上部

 連滝の上部はちょっとした岩場になっていますが、右側を巻けばどうということも無く越えられます。岩場の先はたいていの沢と同様、ごろごろ石の源頭の風景になります。
少し進むと岩の隙間から細い水の流れが染み出していました。そこから先には水はありません。ここが小手茂川の始まりの一滴の場です。
 今時にもかかわらず、紅葉が一枚浮いて、それらしい雰囲気も醸しています。
 カップですくって飲んでみました。お味はまぁ、私の味覚音痴のせいか、いわゆる普通の水でした。
連滝上部の沢、ほとんど水は無し 小手茂川始まりの一滴

 本来ならば、源流の源を確認した時点で帰りにかかるのですが、水が無くなっても思っていたほど暑くは無いので、尾根まで上がってみることにしました。尾根は根曲りに覆われていますが、風が良く通り、意外と涼しいので、ここで昼食を摂り、ゆっくり休息しました。
尾根の藪の隙間から、志無燈山の山頂がすぐそこに見えています。志無燈山には2度登っていますが、2度とも雪の季節でした。
 15分もあれば山頂まで行けるので、どうしようか思案しましたが、今藪を掻き分けるのは汗をかきそうなので、山頂はいずれまた次の機会にということにし、行かずに帰りました。
沢筋に水は無くなりました 小手茂川源頭の尾根の様子
帰りは登った沢をそのまま降りましたが、ロープなど登攀用具は何も使う必要がありませんでした。